2017-08-09

本日のミートクーポン。

このエントリーをブックマークに追加 このエントリーを含むはてなブックマーク
-氏賀Y太「致死暦(ちしごよみ)」ジーウォーク ISBN:9784862976918
話○ モツ◎ 消小 総合△

四肢解体内臓摘出流血惨状短編10本(うち過去単行本未収録作1本)+巻頭フルカラーイラスト連作。出てくる女子みな理不尽な暴力をふるわれ臓腑をえぐられて大量出血のすえ絶命のハードコアな運命が目白押しの作者最新刊は2017年に入り初の成年向け仕様コミックスだ。なお帯コピーや各種メディアでの宣伝にも明記してあるが、本作は著者選定による傑作選集であり完全新作単行本ではないのでご注意を。
原則うちのブログではいわゆる再録集のたぐいを評価対象から外しており、本来ならこの作品もレギュレイションに従いスルーする予定だった。しかしながら購入後中身を確認すると40ページと長めの未収録作品1本が落ち穂拾いされているほか、こちらも商業では初出のイラスト類や既存作品に対しても充実した作品解説が新規に付属していたことで急遽レヴュウすることに。そんなわけで三和出版より去年刊行の、同人再録ながら商業未発表作を集めた前単行本「絶望器官」から1年弱と比較的短い間隔での再会となった。
この作家の元来の絵柄は少年漫画の流れを汲む健康的なタッチだったのだけど、エロ漫画界におけるトレンドの変遷や漫画一般の潮流を適宜取り入れ絶え間なく作画のアップデイトを果たしているのが執筆年代もバラバラなこの新刊を読むとよくわかる。今回はありがたいことに全作の初出単行本/刊行年が記されており、それによるといちばん昔の作品で2000年、直近のでは2015年と原稿にこれほどの新旧差があればヴィジュアルが変化するのは仕方のない部分。もっともそれは弱点などではまったくなく、むしろハッキリ各作の執筆時期を提示してくれたことで作風と年代との間連もわかりやすくなり、いっそうコレクターズ・アイテムとしての価値も高まろうというもの。なお出版社web内の単行本情報から内容サンプルが見られるので、表紙やこの紹介だけでピンと来ない方はまずそちらを確認すべし。
個人的にはたっぷり伏線を仕込み滔々と惨劇を描きつつ最後に驚天動地の結末を持ってきて再度ビックリな長編作にこそ氏賀Y太の真髄があると思っているものの、単なるグロでくくることのできない彼の芸風のさまざまな側面を見るには今回のような読み切り作品セレクトの方が好適だろう。もちろんどのお話だろうと流血沙汰は不可避なのだけどその関与の度合いは作品によりさまざまで、残虐行為そのものを主題に持ってくるかそれを物語の隠し味程度にとどめるかだけでもかなり印象が違ってくるのを実作品を通じ確認できるはずだ。加えて猟奇カテゴリーのなかのサブジャンル――食人/スプラッタ/刺激物責め/異物挿入/放火/頬姦/獣姦妊娠/人体切断などめくるめく人権蹂躙フルコースを目の当たりにして君のなかの人倫も良識もすっかりマヒすること必定。
そんな奇天烈な物語世界にあってセックスの要素はどうしても脇役に回りがち。さすがにノルマとして女の子の裸は全作出てくるけれど、性器挿入→膣内射精という一般的な性行為のシークエンスが描かれる作品は明確にマイノリティなのでちんこの活用には不向きだ。どちらかというと氏賀Y太作品の場合はエロス=タナトスの不可分な連鎖を改めて確認するためのスパイスとして情交が描かれるのであり、彼の描くヒロインにとってはお肌をザーメンで汚されるのもおのれ自身の血で染めるのもいわば等価なのですよ。このあたり多少は濡れ場らしいものも存在した前作より実用性は見劣りするので、黄色い楕円が付加されていても過度の期待はせぬように。
ストロングファック原理主義のこちらで本作のようなセックス要素を脇に置いた単行本を俎上に載せればどうしても総合評価は下げざるを得ず、そこは明らかにアンフェアでもあり作者さまに対してはまことに申しわけなく。しかしながら漫画作品としての評定はもちろん極上クラスで、とりわけ今回はゼロ年代前半のもはや入手不可能に近い旧作からの再録が多いぶん、最近になって氏賀Y太を知った方が改めて彼の足跡をたどるための教材としてこの上なく役立つこと疑いなし。2010年代に入ってからこの人の執筆活動は薄い本がメインとなり雑誌などではほとんどお目にかかれなくなっていたが、この単行本の版元であるジーウォークよりこのたびリョナ系アンソロジーが創刊されるので、もしそれが軌道に乗ればまた紙媒体ベースの新作が定期的に読めるようになるかも。自分自身は氏賀Y太作品はほぼコンプリートでありどの作品も楽しくもなつかしくもあったけど、とりわけ狂った世界観なのになにやら感動すら与える厳しくも愛情あふれる切断嗜好教師の物語「猿鳩先生の止事なき授業風景」や、圧倒的な膂力で少女をねじ伏せ大量のゴキブリをぶちこんでは体躯を裏返す恐ろしくももの悲しい短編「芥虫」などを感慨深く読み返した。

0 件のコメント:

コメントを投稿