2012-08-16

本日のダンスホール。

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-白石なぎさ「牝犬カタログ 調教淫婦」エンジェル出版 ISBN:9784873064338
話◎ 抜○ 消小 総合○

バイ菌呼ばわりし虐げていた地味なクラスメイトの裏の顔を目にして主人公は過酷な現実を知り本編&描きおろし後日談+独立短編7本。むせ返るような牝臭に包まれ性の快楽におぼれながらも不条理な世界の姿に直面して心打ちのめされる矮小な人間存在のありようを鋭くえぐり出す作者5冊めのコミックスは当社から初お目見えだ。
前単行本「濡れた果実」のリリースから1年半以上と間隔が空いたぶん発売を強く待ちこがれていたのだが、それ以上に今回興味を惹くのはこれまでのホームグラウンドだった一水社以外から初の刊行となるということ。既刊は当然すべて購入している白石なぎさファンの自分としては出版社が変わることで作風にどのような影響が出るのかがいちばんの注目ポイントだったのだが、はてさて……。
描きおろしパートを除き収録作はすべて同社の「エンジェル倶楽部」を初出とする。去年と今年の掲載分オンリーゆえ絵柄は安定と思いきや、直近執筆の2本のみいきなり劇画ティックにタッチが変貌。それでいて巻末描きおろし漫画は従前の絵に戻してあるのだから(これは連作のエピローグ部分だから前の方とタッチを統一しているのだろう)、この人元来の絵柄でないことは明らか。そのへんの経緯は作品解説でも触れられているのでここで詳細を述べることはしないが、個人的にはこれまでどおりの絵が好きだなあ。
そんなわけで表紙からいきなりビックリさせられたが、なつかしさを感じる描線でもっさりした肉づきの純モンゴロイド的体型のヒロインをドカドカ量産するという基本ラインはこれまでどおり。年齢層も女子高生~三十路OL/人妻と、母親など熟女を連発していたキャリア前半と比較するとまあ想定範囲内。掲載誌の誌風からするともっと年長方向に偏ると思っていたので白石なぎさの描くJK大好きっ漢たる俺安堵。まあ前述の作風をシフトした直近2本はアダルト寄りなので今後は正直不安ではある。
しかしながらいざ漫画本編に突入すると絵がどうとか女子のお歳がどうとかそんなの関係なしに読者の頭をひっつかんで離さないダーク&ウェットな白石なぎさ節がフルスロットル全開。オーソドックスな凌辱ネタや定番の堕ちものもあるとはいえ、とても21世紀の日本とは思えないドメスティックで陰湿な前近代的設定のなか男子も女子もネガティヴな感情をむき出しにしてもだえ苦しむ情念トラウマ系のストーリーこそがこの作家の本領だ。ことに逃れられない因果や絶対的な貧困といった暗黒まる出しのシチュを描かせると抜群で、どうしようもない運命やら圧倒的な負のパワーに打ち倒されもろくも崩れ去るか弱き人間たちをカメラ・アイで冷酷に浮き彫りにしてゆく。最後に日和ってイイ話っぽく落とすこともせず、弱者に差しのべられた救いの手はつかめぬままだし、手を伸ばす側も結局はおのれの無力を痛感しスゴスゴと撤退することになるのだ。このあたりの徹底したカタルシスのなさは心身に余裕のないときは致死量の毒薬になりかねないので、エロ漫画に癒しの機能を期待するタイプの人は絶対に本作を手にしないこと。
もっともこのやるせない空気が濡れ場には不思議な活力をもたらしていて、凌辱ネタも和姦話もたゆんたゆんの肢体をハードに振りまわす最中に重苦しさ炸裂のモノローグをいっしょに付属させるものだからひどくうざったく、それゆえに心にグサリグサリと刺さるのだ。屈辱的な状況のなか強いられる性交はむしろ開き直りにも似たむき出しの欲望をさらけ出す格好のはけ口となり、いっさいの瑣事を忘却するがための切迫したセックスが我々の根源的な情欲を強く喚起せしめる。
豊満なボディを押し開きみずから腰を下ろすヒロインの秘部にシャフトをうずめてゆくと彼女もただちに反応し自分から往復運動をアシスト。汗みずくになり荒い吐息をもらしながら全身をのけぞらせて快楽を享受するさまがたまらなく淫猥だ。獣のように甲高く咆吼し涙とよだれにまみれながらはしたないイキ顔をさらし続ける。熱く茹だった蜜壷がいっそうきつく収縮しうわごとのように淫語をばらまき続ける彼女のいちばん深い部分へトドメの特濃ザーメンを叩きこみ、愛のない肉欲だけの営みにようやく終止符。
いかにもエンジェル出版らしい官能小説ティックな単行本タイトルや編集サイドの要請を容れたらしい近作の作画など引っかかる部分はあるものの、情念曼荼羅渦巻く白石なぎさワールドのベーシックな部分は変わっておらず腹いっぱいそれらを堪能させてもらった。じつに挑発的なあとがき漫画を見る限りでは従順にここの社風に染まる気は毛頭なさげで、いくばくかの不安はあれど今後も大いに暴れてくれそう。今回収録のものでは唯一の続きものにして人間のネガティヴな部分までこれでもかとあばき出してみせる意欲作「山田の子守唄」がお腹にもちんこにもギュッと響いたです。

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